はじめに
何もしていないのに漏電ブレーカーが落ちていたら、漏電している可能性が高いです。
今回は賃貸アパートの共用部で漏電調査・復旧を行ってきたので、その手順と方法について解説します。
漏電とは
そもそも漏電とはどういう現象のことを言うのでしょうか。
うーん・・・
文面にするといまいちピンときませんね。
漏水をイメージしてもらえると非常に分かりやすいかと思います。
オーソドックスな漏水は給水管(水道管)と呼ばれる水の通り道に亀裂が入ったりピンホールと呼ばれる小さな穴があいたりで、水が漏れてしまう現象です。
漏電も基本的な原理は同じです。
水の場合は給水管が目的地まで水を漏れない様に運ぶ役割をしていますが、電気の場合は「絶縁体」と呼ばれる電気を漏らさない素材がその役割を担っています。即ち、その電気を通さないはずの絶縁体に亀裂や破れが生じ、電気が漏れてしまうことを漏電と呼びます。
ちなみに、漏水の場合は配管や配管のつなぎ目から漏れることが多いですが、漏電の場合はエアコンや冷蔵庫、シーリングライトなど器具の故障・劣化が原因の場合が多いです。
漏電ブレーカー
スイッチを入れても電気が点かない、コンセントに電源を差しても家電が使えない、こんな時にはまずは分電盤をチェックしましょう。特に、住居の漏電に関しては、分電盤の中にある漏電ブレーカーが下がっていれば漏電していると判断してよいです。漏電が軽度な場合、ブレーカーを上げると復旧することもありますが、いずれは悪化してブレーカーが上がらなくなります。
漏電ブレーカーの仕組みは簡単で、「行きの電流より戻りの電流が少ない=どこかで漏電している」と判断して電気を遮断します。
ちなみに、漏電ブレーカーは電気が漏れている場合に遮断しますが、過電流を感知して遮断するのが安全ブレーカーです。
冷暖房を付けたままアイロンをかけたりドライヤーを使ったりしたとき突然停電した経験はありませんか?あれは電気の使い過ぎで、安全ブレーカーが電気を遮断して起こる現象です。
漏電調査で使用する道具
ここでは漏電調査に必要な基本道具を紹介します。
絶縁抵抗計(メガー)
この器具が漏電調査の主役です。使い方は後程説明しますが、名前の通り絶縁されているかどうかを調べる機械です。
同軸配線チェッカー
漏電調査を進めていく中で、分電盤の1つの子ブレーカーの先、どの回路がつながっているのか知る必要が出たときに使います。
電圧計
電圧が正常かどうかの確認に使います。
他に必要なもの
- ドライバー(プラスマイナス)
- カッター
- 万能電工ペンチ
- 圧着スリーブ
- ビニールテープ
- 脚立
- etc
ちなみに、漏洩電流計(クランプメーター)と呼ばれる機械もあり、必須ではありませんがあると便利な機械です。
こちらは漏電ブレーカーの仕組みと同じで、行き帰りの電流に差異があるかどうかで漏電を判断します。
絶縁抵抗計は大元のブレーカーを落として使いますが、漏洩電流計は電気を流した状態で使用する為、ブレーカーをむやみに落とせない現場で役に立ちます。
ただし最終的な漏電個所の特定・検査には絶縁抵抗計が必要になります。
漏電調査
それでは実際の調査方法について説明していきます。
今回はアパートの共用部、共用灯がすべて点灯しないと連絡があり、漏電が発覚しました。
調査をはじめる前に
漏電調査で一番困ること、実は解決後の費用請求なんです。せっかく一生懸命調査し、解決に至ったのに発注者に請求書を出したら「なんでこんなに高いの?」「本当に作業したの?」なんて文句を言われてしまった経験がある方、いらっしゃると思います。
そうならないためにも、写真を撮るのは必須です。
作業前、作業中、作業後。今はスマートホンで簡単に写真が撮れますし、必ず記録を残しましょう。
あれ、鍵がかかってる?
電気事業に携わる方の中では常識ですが、分電盤やキュービクルは一般人が容易に開けられないよう鍵がかかっています。
防犯ではなく危険防止の為なので電気技術者が保守点検、緊急対応で誰でも開けられるよう、統一の鍵が設定されています。その中でも種類はいろいろありますが、「No.200」と呼ばれる鍵が最も主流です。
ただし漏電調査等で電気技術者として作業する場合、鍵を持っていても必ず現場監督や管理者、オーナー様等に事前に相談し、許可をもらいましょう。
漏電している回路を絞る
分電盤を開けたら、漏電ブレーカーが落ちている箇所を確認します。主幹ブレーカーをOFFにしたら、絶縁抵抗計でチェックします。
2本ある配線のうち、一方がワニ口クリップになっていますので、そちらをアース端子に接続します。もう一方の先端が棒状になっている方を調べたい回路にあてます。
正常な場合は「∞」を指します。
回路に異常がある場合「0」を指します。
これで漏電ブレーカーが落ちていた方の回路で漏電していることを確認しました。
次はその回路の先のどの箇所が原因で漏電しているか調査します。
ちなみに今回は共用部ということで子ブレーカー(安全ブレーカー)はありませんでしたが、住居内の分電盤で漏電ブレーカーが落ちている場合の調査方法も紹介します。
まず子ブレーカーもすべてOFFにし、漏電ブレーカーをONにします。そして1つずつ、ゆっくりと30秒程間隔をあけながら子ブレーカーを上げていきます。漏電ブレーカーが落ちたときONにした子ブレーカーが漏電回路です。後の手順は同じです。
漏電している箇所を特定する
ここから先は1つずつ電源が供給されている箇所を探っていきます。
調査手順に決まりは特にありませんが、復旧の手間も考えつつ優先順位を付けて効率よく進めていきましょう。
例えば今回は玄関上の共用灯3か所、防水コンセント2か所がすぐ目につきましたが、防水コンセント回りのシーリングがしっかりしていたので、共用灯から調査することにしました。防水コンセントを調べる場合、シーリングを剥がす必要がある為、復旧の手間を考えての判断です。
カバーを外して
配線を外して
絶縁抵抗計でチェック
さらに外して
チェック
1つずつ回路を外し、絶縁抵抗計が「∞」を示せば共用灯が原因となるのですが、
いずれも絶縁抵抗計で「0」を指してしまう為、さらに細かく調べないといけません。
落ちていた漏電ブレーカーにはそれぞれ2本1組の配線が接続されていたので、それを外して分離します。
そして1本ずつチェック
片方は正常な状態、つまりは漏電していない回路であることを確認しました。
では、共用灯はどちらの回路なのか、これを調べるのがこの機械です↓
先ほど紹介した同軸配線チェッカーです。送信機と受信機に分かれており、それぞれを設置した配線が同軸(同じ配線)であれば音が鳴って教えてくれます。
漏電していない方の配線と共用灯側の配線に設置し、音が鳴りました。
これで共用灯の漏電では無いことを確認しました。
この調子でどんどん漏電個所を絞り込んでいきます。
別の配線をチェック。
「0」を指したため、漏電を確認。
その先を辿っていくと・・・
発見しました。
これはEEスイッチと呼ばれるもので、暗さを感知して共用灯を点灯させるスイッチです。漏電の原因はこのスイッチでした。
実はこのスイッチ
分電盤に着いていました・・・
灯台下暗しとはまさにこのこと。
原因が特定出来たところで、忘れずに写真を撮ります。
復旧工事は漏電個所の交換が必要な為、部材を発注して後日再訪します。
外した配線、器具等を元に戻してその日の作業は完了です。
漏電復旧
原因が分かっているので、後の工事は簡単です。
同じ機種のものがありましたので、新品に交換。
配線をつなぎ直し、
電圧が正常か確認します。
確認が取れたら、次は器具の動作確認に移ります。
ちなみに電圧の正常な数値については、電気事業法施行規則で101V±6Vと規定されています。
EEスイッチは暗さを感知してONになるので、強制的に暗闇を作ります。
無事に点灯しました。
最終チェック
数値は「∞」を示しているので正常です。
最後までしっかり写真を撮り、終了です。
まとめ
いかがでしたか。漏電調査は宝探しと同じ、と電気技術者は言います。1つずつ確実に、根気よく調査することが大事です。ちなみに、住居の漏電調査を行うには第二種電気主任技術者以上の資格が必要ですので、くれぐれも注意してください。

