ボロボロの本襖を胴張り・下張りと下地を作った上で上張りして仕上げる方法を解説しています。襖は状態が悪くなければ張ってあるふすま紙の上に重ねて張ることができますが、状態が悪いと襖紙(上張り)、さらにその下の下張りからやり直します。
表具の伝統的な施工だと骨組みの状態から張り直したとき非常に手間がかかってしまいます。実際の現場では予算・時間も限られているので、いくつかの工程は省きつつ、それでいて変わらない仕上がりを目指すのがポイントになります。
今回の施工について
今回補修するのはこのように襖骨(ふすまぼね)が露出するほど傷んだ本襖(ほんぶすま)です。襖には他に段ボールでできた段ぶすま、ベニヤでできた板ぶすまなどがありますが、本襖は木の骨組みの上に和紙を重ねて張っていく伝統的な襖です。
今回は枠に胴張りという下処理を行います。これはふすまに日光が当たっても枠が透けて見えないように紫外線を通さなくします。
胴張りのあと、下張りという襖の仕上がりをよくする処理を、最後に襖紙の上張りという順番で行います。
下準備
枠を外す
本襖は骨組みに対して紙が張ってあって、その周辺を木枠で固定する仕組みになっています。
襖板の脇に釘が出ていて、枠の穴にそれが入って固定されています。枠を少しスライドさせると外れます。
引き手を外す
襖に四角か丸の取手がついているのでこれを外します。
襖紙を剥がす
表面が剥がれたり荒れている状態の上にふすま紙を張ると表面が平らにならないので、剥がれた紙を剥がしていきます。
胴張り
次に胴張りを行います。先ほど言ったとおり、胴張りは色のついた紙を張ることで日光を遮断し襖の枠が透けて見えるのを防止します。
糊を塗る
胴張り紙のほうにも全体的に糊を塗ります。クロス用の糊付け機械がある場合それを使って、なければ刷毛で塗ってください。
胴張りは糊を薄めず、周辺だけでなく全面に塗ることです。
張り付け
両側を縦に二人で持ち上げて、慎重に襖骨の上に乗せます。
余りを切る
三辺で胴張り紙がはみ出ています。これをカットします。
下張り
胴張りが終わったら次は下張りです。下張りは周辺にだけ糊を塗った茶ちり紙という和紙を張ります。これは和紙の中央が張られていないので張り上がった時に乾燥してピンと張る効果があり、襖の仕上がりをよくする目的で行います。この張り方を袋張りといいます。
茶ちり紙は本来縦に6枚で張りますが、今回は基本を外して横に3枚で張ります。
まず刷毛で茶ちり紙の縁に糊を塗ります。基本的には3mmから5mm糊付けしますが、今回のように状態の悪い襖はのりしろを多めに取ったほうが安定するので1cmほど糊を付けます。
刷毛を使う際、右上から左下というふうに斜めに動かしましょう。今度は刷毛を返して左上から右下というふうにバッテンにかけます。これで均等に塗れます。
袋張り
四辺に糊付けをしたあと、胴張りをした襖の上に茶ちり紙を張ります。
あとは裏も同じように袋張りします。
糊を乾かす
下張りが終わったら糊が乾いて茶ちり紙が外れなくなるまで時間を置きます。だいたい2時間程度おけばOKです。
上張り
下張りした襖が乾いたので、いよいよ襖紙を張ります。
まず作業台の上に襖紙を裏面を上にして広げます。
目印があったほうがこのあと切って糊をつけるときに便利なので、慣れないうちは書き込んでおきましょう。
襖の形に合わせて切る
今の目印を使って襖紙のサイズを合わせます。定規を使って切りますが、少し線より外側で切ることです。
これは張った際に襖の側面に紙を巻くため、襖の厚さのぶんだけ上下左右で長めに用意したいからです。
ただし、襖の厚みの分ちょうど外側に切るのだと少し余分です。なぜならこのあと襖紙に糊付けしたら、糊を吸収した紙が膨張するからです。
外糊
襖紙はまず周辺に濃い糊(外糊)を塗り、そのあとで中は水もしくは薄い糊(中糊)を塗ります。
襖専用の糊もありますが、クロス用のウォールボンドでも代用可能です。
中糊
今度は中糊です。水刷毛で水を引くこともできますが、中央が剥がれて浮いてくるリスクを考えて少し糊を混ぜました。
今回はウォールボンドを10倍に希釈したものを使います。
張り方
角の処理
乾かす
これで上張りが済みました。今度は1日置いてしっかり糊を乾かします。
急激に乾かすよりも暗所でゆっくり乾かしたほうが無理なく襖紙の表面が引っ張られて仕上がりがよくなります。
枠を組み込む
1日経ちました。どうでしょうか? 表面がピンと張った状態になりました。枠を組む方法を解説します。
左右の枠を組む
枠がかなりガバガバでどこから組んでも同じような状況です。まず左右の枠から組みます。
ビスで補強
本来、襖の枠は正しく組めば強度があるのですが張替えを行う本襖は年季が入っていることが多く、そのため枠もそのままだと安定しないことがよくあります。
引き手を戻す
外しておいた引き手を戻す際は手で触って引き手の位置を探して、縦・横・斜めと紙に切れ目を入れます。
完成
これで完成しました。
繰り返しですが、これは本当の(伝統的な)襖の張り方ではありません。
伝統的な張り方では本当は以下の画像のように
という膨大なステップがあります。ただ、このように張られている襖は現実的に今はあまりないでしょう。確かに耐久性は良くても、コストが跳ね上がってしまうのでお客さんもここまで求めていないのが実態です。

